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診察券のデザイン:優先順位を的確に

2025.12.9

診察券のデザイン:優先順位を的確に

何事にも準備が大切です。診察券のデザインをどうしたらいいのかアレコレ思い悩む前に、診察券に求める条件について整理してみましょう。診察券のデザインについて「こうであったらいい」という願望もあれば、「こうでなければならない」という必須条件もあると思います。今回は後者の方を中心にした話になります。

チャートの間違いに注意

よく「プライオリティ(優先順位)」について整理するときに、チャートを広げてどのポジションが求められ目指していくのかを理論的に考えることがあると思います。ブランディングやプランニングの専門家がよく使うチャートは、ブランドでもクリニックでもポジショニングを明確にする上で非常に役に立ちますが、例えばこのチャートのように「そもそもチャートが間違っている」場合もあるので注意しましょう。

誤ったポジショニングチャート

このチャートの「一般的」と「個性的」の軸は問題ありませんが、「デザイン性が高い」と「わかりやすい」が相反するのは誤りです。なぜならデザインは「わかりやすくする」機能を持っていて、この2つが相反するのは明らかにデザインの認識不足だからです。デザインをあってもなくてもいい「装飾」と捉えたこの認識は、デザインの本来の機能を取り違えています。デザイン性が高く、個性的で、わかりやすいデザインが世の中には存在するので、このような誤ったチャートで優先順位やポジショニングするのは意味がありません。チャートが正しい軸で構成されているか否かを慣れない人が判断するのは難しいので、ブランディング経験のあるデザイン会社などに相談してみるといいでしょう。

診察券に求める条件

診察券のデザインに求める条件を、大きく分類すると下記2つになります。

  1. 情緒的条件
  2. 情報的条件

「情緒的条件」とは、かわいい、先進的、親しみやすいといった印象についての条件です。この情緒的情報だけのことを「デザイン」と捉えると、前述したチャートのような誤りに陥ってしまいます。もちろん、モダンで女性的で優しいといった印象を左右する「デザイン」は大変重要な部分であることは間違いありませんが、そういった演出の前に絶対条件とも言える「情報的条件」があることを忘れずにいましょう。「情報的条件」とは、クリニック名や受付時間、患者の氏名やナンバーの記入欄といった事務的な情報表記に関する条件のことです。「情報的条件」は「情緒的条件」よりも優先順位が高いのは言うまでもありません。どんなに素敵なデザインの診察券でもクリニック名が記載していないなんてありえない。と、そういうことなのです。

情報的条件の優先順位はある程度決まっている

では、診察券に求められる「情報」の中身はどんなものか?そんなの当たり前すぎてバカバカしい!なんて言わずに見ていきましょう。一般的なクリニックの診察券には以下の情報が記載されています。

  1. クリニック名
  2. 電話番号
  3. ナンバーと氏名
  4. 受付時間
  5. 住所
  6. WEB

クリニック名が記載していない、あるいはクリニック名のロゴがわかりにくくて何て読むのかわからない、なんてことは絶対にあってはならないことです。優先順位のトップがクリニック名であることは言うまでもないでしょう。また予約や問い合わせに使う電話番号も重要な情報です。住所もWEBも患者さんが「検索」する時代なので、ひと昔前と比べて住所やWEBは優先度が低いと考えてもいいでしょう。受付時間が短期間に変更になる場合は、WEBのQRコードを診察券に配置して、受付時間・住所・WEBの表記は割愛するといった柔軟性が求められる時代です。

クリニック名が優先順位のトップ、電話番号が上位にあるのは間違いないでしょう。項目を見てわかる通り、情報的条件の優先順位はある程度決まっています。クリニックの運営状況によって若干の違いはあるかもしれませんが、ほとんどのクリニックにこの優先順位が当てはまると考えるのが妥当です。

目立つ目立たないの理屈

診察券に記載する「情報」の優先順位は明らかです。その優先順位が崩れないようデザインに落とし込むことが大切です。ではどのようにすれば?最も簡単でわかりやすいのが、優先順位の高いものは大きく、低いものは小さくレイアウトする方法です。例えばこのようなバランスなら、1行目の文字が最も大きく目立っています。

1行目の文字が最も大きく目立ったレイアウト

目立つ部分とそうでない部分のコントラストがあって、わかりやすい例ですね。では、こういうのはどうでしょう?

すべて大きくて目立つ部分がないレイアウト

全部大きな文字になって見やすくなりましたが、目立つ部分がなくなってしまいました。あれも大事、これも大事と欲張って、レイアウトに優先順位がなくなってしまった悪い例です。電話番号も大きく、受付時間も大きく。そういう診察券だと最も重要なクリニック名が目に飛び込んでこないレイアウトになってしまいます。

診察券に記載する「情報」の優先順位をデザインに反映するには、「目立たない部分」をしっかりつくって大小のコントラストをつける必要があることを理解しておきましょう。

優先順位を的確にデザインした診察券

「情緒的条件」で診察券の優劣を判断するのが難しい反面、「情緒的条件」がきちんとできているデザインかどうかで診察券の優劣を判断するのは可能です。デザイナーズ診察券のデザインは、情報の優先順位をまったく気にせず何となくデザインされたデザインではなく、情報の優先順位をしっかり意識してデザインされています。かわいさや温もりがあっても、わかりにくく役に立たない診察券なら意味がない。もちろんそうですよね。

優先順位を的確にデザインした動物病院の診察券:表面
優先順位を的確にデザインした動物病院の診察券:裏面

表面には大きくクリニック名、クリニックのテーマカラー、動物病院だとハッキリわかるイラスト。裏面は情報の大小で必要な情報がハッキリとわかるコントラストをつくっています。かわいい、楽しいといった情緒的な表現は表面で演出し、裏面では情報をわかりやすく整理。デザイン性が高く、わかりやすいデザインになっています。

表面だけで優先順位を的確にデザインした診察券
診察券の裏面は予約シールを使用

これは裏面に予約シールを使った診察券の例です。デザインする部分が表面だけだとしても、情緒的なデザインをしっかり入れた上で情報の優劣を文字の大小でしっかりとコントラストをつくっています。

診察券に最良のデザインを

診察券は小さなデザインアイテムです。デザインスペースが非常に限られるため、その小さなスペースを上手に使って「役に立つ」診察券にするには高いスキルとデザインに関する理論を持っているデザイナーが関わる必要があります。ずっと患者さんの手元にある診察券は、言わばクリニックの「顔」のような存在です。そんな診察券にこそ、最良のデザインを採用していただきたいと考えています。

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ブログライター

WRITER

ながしま 明

複数のデザイン事務所勤務を経て、2006年有限会社デザインウルフを設立。多くの企業の商品やサービスについてブランディング、販促活動をデザインにてサポート。ロゴ、WEB、印刷、写真、映像、コピーと職種を超えるマルチクリエイター。

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