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診察券は「必要」から「あった方がいい」へ

2023.7.11

診察券は「必要」から「あった方がいい」へ

ビジネスや生活の様々なシーンでデジタル化が進み、いままで費やしていた労力と時間が不要になってきました。また、これまでないがしろにされてきた労働環境についての見直しが求められ、無駄を省いて環境を改善する「効率化」が求められる時代です。ワークフローを効率化するためにはデジタルワークを上手に取り入れるだけでなく、アナログの領域でも必要なものと不要なものの選別が鍵となります。クリニックの診察券も、その存在意義を見直す時期にあると思います。

かつて診察券は「必要」だった

診察券はクリニックにとって必要不可欠なものでした。クリニックにとっては診察券がないと受付がスムーズに進まなく、患者さんにとっては診察券がないと診療してもらえない、それが診察券です。診察券は単なるカードですが、以下2つの内容が記載してあります。

  • クリニックの情報が記載されている
  • 利用者の情報が記載されている

クリニックの受付時間や電話番号、利用者のナンバーや氏名。それらが小さなカードに集約されています。その情報により、診察券が果たす役割はこのようなものです。

  • クリニックが受付をスムーズに行える
  • 利用者がクリニックの情報を知ることができる

この役割により診察券はいままで存在してきました。クリニックが患者さんに割り振ったナンバーは、電話での相談や予約に役に立ち、利用者にとってはクリニックの情報が記載された診察券は小さな「ガイド」として機能します。多くの医療機関で診察券が必要不可欠と考える理由は「クリニックに記載された文字情報」だったのです。そして現在では、情報のやり取りをWEBやアプリが担えるようになってきたため「診察券は必要なし」と考えるクリニックが増えているのです。

WEBとアプリで情報をやり取りする

現在では、クリニックのWEBをきちんと制作しておけば、患者さんが知りたい受付時間や電話番号などの情報はインターネットですぐに調べることができます。予約サイトで予約を完結できれば、受付のフローも効率よく行うことができます。小さなクリニックではLINEを活用した予約フローを行っているケースもあると思います。もちろん、デジタル化には「リアルタイム」であることと「業務を重複させない」というポイントがあり、気をつけないとデジタル化したことで逆に業務が増えてしまうことになりかねません。

WEBとアプリで受付を効率化する

WEBやアプリの情報はつねに最新に保ち、予約についても電話、対面、オンラインに対応するのが難しければ手段を絞る選択が必要となります。業務が無駄に増えることのないよう上手にデジタルを活用すれば、業務は確実に効率化するだけでなく患者さんのユーザビリティも向上します。

アナログの診察券にしかないもの

WEBやアプリで受付を効率化できれば、診察券を使わなくても問題ないケースがあります。実際に診察券不要としているクリニックもあります。しかし、アナログの診察券ならではのメリットがあることを忘れてはいけません。アナログの診察券では、デジタルでの情報とは異なる「情緒的情報」を発信することができます。情緒的情報とは「かわいい」とか「現代的」とか、そういうった雰囲気やイメージのことです。それらを実現しているのは言うまでもなく「デザイン」ですが、細かく言うと診察券の質感や手触りといった部分も「情緒的情報」に含まれます。

印象を伝達する診察券のデザイン

女性的、人間的、子供が喜ぶ、最新っぽい、スマート。クリニックの利用者が持つそういった印象は、どこから来るのでしょうか。そういった漠然としたイメージは、電話番号や予約時間といった文字情報から得ることはできません。医師やスタッフの診断や対応が「医療品質」として評価されるのはもちろんのことですが、人が持つ印象はスペックではなくあくまで印象です。すぐに破損しそうな診察券より、しっかりとした耐久性のある診察券を使っているクリニックの方が「信頼できる」と思ったり、他にはない特徴のあるデザインの診察券を使っているクリニックだと「他にはない良さがあるかもしれない」と思ったり、それが「情緒的情報」の効果です。

デザインがつくりだす「情緒的情報」は、他のクリニックとの差別化にも一役買います。医療自体に自信があるから「情緒的情報」は必要ない。病気を治すことが医療であって、印象や雰囲気は無視していい。そう言い切れるクリニックは、ほとんど存在しないのが現実です。

なくても済むものの価値

印象がつくりだす効果は様々なビジネスシーンで実証されています。特に趣向性の高い商品の場合は、印象で購買が決まると言っても過言ではありません。そこには本来必要ないと思われる部分に、大きな労力とコストが注ぎ込まれています。

デザインされた商品01

例えば、お菓子のパッケージがそうですね。百貨店やケーキ店で缶入りのクッキーが売っていますが、中身のクッキーが売りものであって入れ物の「缶」は不要といえば不要です。パッケージをもう少し簡素なものにして料金を安くしてくれたら…。そう思う人もいるかもしれませんが、もしパッケージを簡素にしたらその商品は今より売れなくなることでしょう。多くのメーカーがパッケージや商品自体のデザインにこだわっているのは、それにより売上が左右するのを知っているからです。かわいいデザインのパッケージやチョコレートのデザインは「なくてもいい」と思いがちですが、実はそこに大きな価値があるのです。

デザインされた商品02

人を惹きつける医療機関になる

歯科でも内科でも動物病院でも、継続的に医療を提供していくためには医師の力だけでなく「経営力」が必要になります。スタッフの給料を払い、毎月の経費を滞りなく支払うために、クリニックの経営が健全であること。また、災害や人事といった予期せぬ出費に備えるためにも、経済的な余裕も必要です。もちろん、患者さんに不必要な医療を押し付けるような診療を行ってはいけませんが、クリニックに患者さんが安心して通えるような環境づくりや、好感を持ってもらえるような配慮の積み重ねの1つ1つが、クリニックの経営を支えています。他のクリニックとの差別化のために診察券やWEBを上手に活用することも大切です。人を惹きつける医療機関になることは、同種のクリニックが多数存在する現代において、経営を持続させるための必須条件です。

必要だった診察券から
あった方がいい診察券へ

現在では、文字情報の伝達はデジタルツールで置き換えた方が合理的です。WEBやアプリで受付を効率化できれば、診察券を使わずにクリニックを運営することも可能です。診察券を使わないクリニックが主流になる日も近いかもしれません。しかし、AIの進化やデジタルツールの発達によって様々なものが機械的になっていく現代だからこそ、人のぬくもりを感じる受付や人間性が感じられる診療、「情緒的情報」を含むアナログの診察券が果たす役割は大きいのではないでしょうか?

診察券がどうしても必要だった時代は過ぎ去り、これからはクリニックをポジティブにするために「診察券はあった方がいい」ツールに変わりつつあるのだと考えています。診察券を使った場合の受付でのコミュニケーション、診察券のデザインが発信する情緒的情報。そこには計り知れない価値が存在しています。

ブログライター

WRITER

ながしま 明

いつくかのデザイン事務所勤務を経て、2006年有限会社デザインウルフを設立。多くの企業の商品やサービスについてブランディング、販促活動をデザインにてサポート。ロゴ、WEB、印刷、映像、コピーと職種を超えるマルチクリエイター。

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