日本のデザインレベルを考える
2020.8.21グラフィックデザインは印刷技術の機能として誕生してから、様々な発展を遂げてきました。グラフィックデザイナーは印刷の版を制作することが中心の限られた分野の技術職でしたが、経済の発展と共に印刷の多様化、WEBをはじめとした媒体の多様化が進み、求められる技術の幅も拡大する傾向にあります。対象となるサービスや法人の種類も多様化し、デザインの表現も多くのバリエーションが求められています。そんな中、グラフィックデザイナーは現代のニーズに的確に応え、時代を生き抜いていかなければなりません。診察券をつくろうと思っているクリニックの皆さんにとっては、診察券から少し脱線した内容になりますが、今回はデザイナーが生み出すグラフィックデザインのレベルについて紹介したいと思います。
デザインの優劣について
デザインの優劣を決定するものは何か? それはとても難しいテーマのような気もしますが、グラフィックデザインが「目的を持って制作された目に見えるもの」である以上、その優劣を決める基準は「目的を達成できたかどうか」ということになります。目的が具体的にどのように設定されたかにもよりますが、多くの場合その判断はデザインが世に出て一定期間を経た後の「結果」によってわかります。つまり、結果が出てみないとわからない。それがデザインの優劣です。例え誰が見てもあまり見た目がパッとしないデザインであったとしても、目的をしっかりと果たすことができれば、それは「いいデザイン」と言えるでしょう。例えば見た目があまり美しくない1色印刷のスーパーのチラシでも、意図通り「安い」ということを伝えることができて、実際にスーパーの売上に貢献することができれば、それは「いいデザイン」なのです。
デザインレベルは上がってきたのか?
「結果を残す」ことができるデザインを生み出すためには、デザイナーの技術的な力量が必要です。現代では様々なグラフィックデザインが街中に溢れ、グラフィックデザインという職業もかなり認知されてきたと思いますが、「デザイナーはセンス(感覚)で仕事をしている」と誤解している人もまだまだ多いと思います。もちろん、美的感覚はデザイナーの必須条件ですが、仕事の多くは理論的な「技術」に支えられています。明るく見せるための技術、優しく見せるための技術、清潔感を見せるための技術。あらゆる視覚演出はすべて技術がないと成り立ちません。そういうベーシックな部分は、昭和以前から変わっていません。その一方で、パソコンによる作業が主流になったことで、印刷版を制作する工程はまったく違う環境になりました。現代ではいままで数年かかった製版の経験値は必要なくなり、デザイナーが育ちやすい環境になったことは間違いありません。職種の多様化と競争により、デザイナーの仕事はどんどん増え、スピードの要求と共に案件多くをこなすことで、経験値は上がっていきます。特別な資格を必要としないデザイナーという職業に就く人の数も、近年増加していることでしょう。しかし、デザインの優劣(結果)に直結する「デザインの質」も、デザイナーの増加と共に上がっているか?と聞かれたら、これは別の問題です。
デザインの優劣を支えるデザインのレベル。それは数値に置き換えられるような単純なものではないため、統計をとって正確に把握することはできませんが、近年のデザインを見て感じるのは「ひと昔前とは様子が違う」ということです。
WEBを含め世の中のデザインは、全体的に「小綺麗」になったと感じます。街を歩いていても、インターネットで調べものをしていても、好感の持てるデザインが世の中に増えてきたと思います。その一方で、突出して魅力のあるものを目にすることが少なくなりました。そして、明らかに職業デザイナーが関与していないデザインを多く見るようになりました。10年前、20年前と比べても、やはり違いがある。これはあくまで個人の肌感覚に過ぎませんが、大きく外れた見解ではないと思っています。
デザインのレベルは、もちろんデザイナー自身のスキルや考え方がベースになっていますが、世にあるデザインのほとんどのものが企業や団体の依頼の上に成り立っているため、依頼主とデザイナー相互のコンディションが制作物のレベルに反映されています。昔と違って少ない予算で事業をはじめることも多い現代では、デザインに多くの予算を割けない傾向があります。予算が少なければ、制作会社の所属するデザイナーで経験値の高いデザイナーを担当にすることはできないでしょう。また、デザインを外注せずに自身でパンフレットやWEBをつくって営業している会社もあるでしょう。そういったことも、昨今のデザインレベルに大きく影響していると思われます。
いまこそデザインレベルが必要
良くも悪くも日本全体のデザインレベルは下がってきていると考えています。料金が安くて「可もなく不可もない」ものをつくってくれる会社は増えています。予算の縮小と競争により、印刷会社とデザイン会社の料金は以前と比べて明らかに低下傾向にあります。それはある意味、デザインの依頼主には優しく、デザイナーには厳しい世の中と言えるでしょう。
しかし、クリニックをはじめあらゆる業種もまた、競合と差別化を図り(参照:診察券で差別化を)自身の優位性を明確にしていかないと、生き残っていくことはできません。世の中全体のデザインレベルが高くない時代だからこそ、優れたデザインで一歩先にリードする重要性があります。
WRITER
ながしま 明
いつくかのデザイン事務所勤務を経て、2006年有限会社デザインウルフを設立。多くの企業の商品やサービスについてブランディング、販促活動をデザインにてサポート。ロゴ、WEB、印刷、映像、コピーと職種を超えるマルチクリエイター。
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